「ALMOST PERFECTは、「こうしたい」というビジョンがあって作り上げた場所ではありません。ルイスは、海外のクリエイターと交友が深く、みなさんインスピレーションを求めて、東京へやってくるんです。日本の文化や美意識に興味を持っていても、Airbnb(民泊)やホテルに泊まって、観光をして帰っちゃう。それだともったいないですよね。せっかくなら、作品づくりができて、海外クリエイターと国内のクリエイティブなコミュニティをつなげる、そんな滞在場所を作りたかったんです。それってアーティスト・イン・レジデンス*1的だよねと、話し合っていたのが出発地点でした。」
1階はギャラリー、2・3階はレジデント用のゲストルームと制作スタジオがある。
そんな折、関東大震災直後に建てられ、東京大空襲を奇跡的に免れた建物との出逢いに恵まれた。そしてここを、国内外のクリエイターをターゲットにした、滞在型のアートスペースとして生まれ変わらせることになる。
「私たちは、プライベートでやっているので、リノベーションに何千万円もかける余裕はありません。ここは、3世代の家族が、100年に渡り営んできた精米店だったのですが、なんと店内でたき火をしていたんですよ。たき火の煤(すす)が、抗菌効果となり、床や梁を状態良く保っていたのでしょうね。そこで最低限だけきれいにして、建物の味わい深い部分を生かすことになりました。」
1階のギャラリーには、精米機が当時のおもかげを残したまま鎮座する。
ALMOST PERFECTがオープンして1年の間に、21名のクリエイターが滞在した。どんな人がこの場所に興味を持ち、訪れるのだろう。
「普段の日常生活と全然違う場所に行きたい、リフレッシュしたい、キャリアチェンジしたい、といった人生の節目に来てくれる方が多いですね。ヨーロッパやアメリカ、オーストラリア、アジア圏のように、日本とは文化も美意識も見た目も全然違う土地から来たほうが、「うわぁ!」と刺激を受けて、リトリート*2的に効果があるようです。」
2階のレジデンス Photo by Brian Scott Peterson
「ALMOST PERFECTが大切にしているポリシーとして、サスティナビリティ*3があります。なにかが必要な時に考える順番があって、最初にリサイクルやアップサイクルができるものがあれば、それを活用します。アップサイクルといえば、この建物。古くなったから壊すのではなく、改装・補強して利用すれば、費用を抑えられてお財布にも優しいですよね。」
「もし身近にアップサイクルできるものがなければ、次はローカルソーシングです。必要なものは、なるべく近所で調達すれば、輸送費の削減になるし、地元のコミュニティも活性化します。クリエイターが制作で使う画材やインクは、カキモリで購入できますし、和紙の問屋も近所にあります。作品展やパーティーで欠かせないワインも、近所の都市型ワイナリーBook Roadで調達しています。どうせ買うなら、地域のものを選び、なるべく地元に還元したいと思っています。」
譲り受けたピアノに、閉店した呉服屋さんで見つけた掛板を組み合わせたテーブル。
地元の工房で加工した真鍮(しんちゅう)ののれん棒。
ALMOST PERFECTでは、海外クリエイターと地域のコミュニティをつなぐ手助けもしている。きっかけは、カナダ人アーティストと地元の人達との交流だった。
「オープンして間もない頃、台東区の町工場や工房に突撃して、職人たちのワークスペースの絵を緻密に描くアーティストが滞在しました。カロリン・ラベルニュさんという方で、彼女からみると、大体のものは、大きな工場で作られるのが当然なので、日本の小さな町工場や工房が、すごく新鮮だったみたい。滞在中に制作を始めて、最後の1週間にギャラリーで作品を展示したところ、近所のシルバー彫刻士や手織り工房の方が来てくれたのです。この場所だからこそ生まれた、地域のつながりや交流が楽しくて「あっこれだ!」と私たちの活動に確信を持ちました。」
「蔵前・浅草エリアが素晴らしいのは、ローカルでなんでもそろい、クリエイターの力になってくれるところです。海外の方が、小さな工房を調べたり、交渉するのは難しいのですが、ALMOST PERFECTを利用することで、木工や手織り、ラタン工芸、金継ぎなど、クリエイターの要望に応じて、小さな工房を紹介できるんです。もはや斡旋業者ですね(笑)」
カロリン・ラベルニュが実際に訪れた町工場でのスケッチ。右端にはその場で聞いたこと・感じたことを手書きで綴っている。
「サスティナビリティやローカルソーシング、そしてエシカルソーシング*4。ALMOST PERFECTが実践しているポリシーは、ルイスと私のこれまでの経験や、現在のふたりの状況、この家が見つかったという、様々な条件が、偶然重なって出来上がったものですが、結果としてこれまでの集大成になりました。まったく関係ないことは、できないし、自然とそうなっていったんですね。」
ローカルに根ざした彼らの活動が注目され、声がかかる機会も増えてきた。先日、渋谷駅前の新施設shibuya-sanのコラボレーションパートナーとしてトークイベントに招かれたそう。
「shibuya-san」は、2019年12月5日に渋谷フクラスの一階にオープンした観光案内所。東京の代表的エリアでもあり、新しい文化の発信地でもある渋谷という街のユニークさを活かし、昼はアートスペース、夜はバーとして世界の人と地元の人とが交流する場として生まれた新しい施設だ。
「今回のshibuya-sanのイベントでは、パートナーとして招かれ、ALMOST PERFECTについてのプレゼンテーションとトークをさせて頂きました。きっかけは、私たちの取り組みについて興味を持って頂き、先方からお声がけいただきました。shibuya-sanに展示するアートを通じて、ローカルと外国人の観光客をつなげ、文化を混ぜるというコンセプトは、私たちの活動とも共通点があるのかなと思っています。観光案内所の隣にアートセンター機能を兼ね備えている、というのはとても新しくて興味深いですよね。」
ALMOST PERFECTを広めるイベントへは二人で参加する。
これからについて
「まだまったく形になっていませんが、東京以外の都市でも活動できたら、面白いなと思う時もあります。ALMOST PERFECT Madrid(マドリード)が実現できたらいいですよね。海外のクリエイター目線で選ぶなら、京都や大阪もインスピレーションを刺激しそう!大阪の紙の倉庫とか余ってないですかね?(笑)近い未来に、紙物特化型のアーティスト・イン・レジデンスが実現できたら、面白いですね。」
ALMOST PERFECT
東京都台東区小島2-3-2
13:00〜19:00
休館日は不定休。今後の展示スケジュールはホームページやSNSで紹介。
www.almostperfect.jp
instagram @almostperfecttokyo
ルイス・メンド Luis Mendo
スペイン出身のアートディレクターでイラストレーター。スペインとオランダでエディトリアルデザイナーとして20年間活躍した後、2013年に東京に拠点を移し、イラストレーターとして活動するかたわら、国内外のクライアントワークも続けている。2018年冬に滞在型レジデンスのALMOST PERFECTを設立。展示を希望するクリエイターのキュレーションを担当。イラストレーターとして国内外のクライアント向けにデザインの仕事も手掛ける。
www.luismendo.com
instagram @luismendo
「最初にALMOST PERFECTの紹介をするためのパンフレットを考えていたのですが、それに加えて周辺マップも盛り込みたいと思いました。というのも、ギャラリーを訪れる外国の方々が近所のレストランやおすすめスポットを毎回質問してくれるので、英語で紹介したものを作りたいと思っていました。近くには美味しいお店やアーティストが喜びそうな文具店がたくさんあるのに、意外に知られていないことが多くて。私たちがおすすめする周辺マップが盛り込まれたパンフレットだとさらに個性的になりそうかなと。地図のイラストはもちろん私のデザインです。マップの裏面にはALMOST PERFECTのコンセプトと施設の紹介をしています。トータル的にうちらしいものに仕上がりました。」(ルイスさん)
サイズ | 420×297mm(A3シート) |
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紙 | コットンナチュラル116.3g |
印刷 | デジタル印刷(両面) |
色 | フルカラー |
価格 | 200枚 18,900円 / 500枚 41,400円(+税) データ入稿 |
納期 | 校了後3営業日 |