「もともと単純に食べることが好きでした。私は2歳から7歳まで、父の赴任先のイスラエルで過ごしたのですが、食べ物の記憶ばかり残っているんですよ。母は旬の食材を使った食事を大切にしていたので、食べ物に興味を持つのは必然的な環境だったのでしょう。
山梨の祖母の家には梅の木があり、毎年、母と祖母は梅干しを漬けていました。梅干しづくりはとても身近だったので、小学校の自由研究で梅干し作りの過程をまとめて、一冊の本にしたんです。赤じそのふりかけを作って、本に貼り付けたり随分と手の込んだことをしましたが、まさか将来、自分が梅の本を執筆することになるなんて。今思えば「自分の手で何かを作る」ことに興味を持った原点かもしれませんね。」
大学でインテリアを学んだ後、会社員ではなく「自分の手を使った仕事を生業(なりわい)にしたい」と漠然と思っていたといいます。そこで興味のあった木工家具の世界に飛び込み、京都の里山で修行。1年後、東京のインテリアショップに勤務するも、家具で生きていくにはいくつもの壁があるとわかり、いったん離れる決断をします。
「人生に迷いながら次に浮かんできたのが、食の世界でした。アルバイトで厨房の経験はあり、京都での修行中も、寮で作る食事は皆に好評でした。「飲食店とは違う世界を見たくて料理教室のアシスタントに。アシスタントとして、お礼状の書き方や電話応対、お茶の出し方など、社会人としてのマナーをたたき込まれました。厳しい中で多くのことを学び、後々につながる多くのご縁ができました。」
旅先で買い求めた器たちが、料理をさりげなく引き立てる。
「アシスタント経験後、「料理をさらに深く学び、いつか自分のお店で料理を食べてもらいたい」と思いが膨らみ、西麻布の割烹 眞由膳を知り、実際にすぐに食べに行って「絶対にここで学びたい!」という一心で手紙を送りました。面接時に正直に独立したいと相談し、修行させていただいたんです。長時間働く、料理屋の肉体的なつらさも経験しましたが、出汁のひき方、魚のおろし方など和食の基本を学ぶとても豊かな時間でした。この出会いには後日談があり、私の仕事ぶりを知る方が眞由膳の常連さんで「その子を取らなきゃ損するよ」と口添えをしてくれたそう。人の縁や助けをありがたく思っています。」
2年間、様々なことを学び退職。物件を探しながらケータリングや弁当作りの仕事をスタート。アシスタント時代の仲間の紹介で、この場所(現店舗)を年末1週間だけ借りて注文のおせち料理を作っていました。すると大家さんもおせちを注文してくれて、その後そのまま店舗を貸してくれることに。それからはトントン拍子で話が進み、年明け4ヶ月後には念願の店がオープンしました。
明るく開放的な庭と店内。窓からは四季の移ろいを感じる景色を楽しめる。
「通常独立するには初期費用がかかります。私はご縁があって、厨房付きの居抜き店舗を契約できたので、借入れなく開業することができました。その分人任せにせず、自分が動いてロゴやショップカード、内装を決める時間がとれたのです。「いずれ自分の城(店)を持ちたい」と周囲の人に打ち明けた時、「かならず助けてくれる人がいるから頼りなさい」と言われました。いざ開業しようと思った時に、その通りになって「時が来た!」と感じました。過去の自分が通った道のご縁が、全部ここで一本の道につながっていった気がします。」
「庭 niwaのコンセプトは、「純粋にごはんがおいしく食べられる和食店」です。和食は、高級な懐石か、手頃な定食屋・居酒屋の二択で、その中間は少ない。家庭よりも少しだけ洗練された味を、手頃なお値段で提供する店にしたい。前菜としておばんざい、最後にメインのおかずと土鍋ごはんの定食、という方向性が決まりました。店名は、客席から見渡せるこの「庭」という言葉が、一番しっくり、スッと入ってきて決めました。」
豊かな緑に囲まれ、隠れ家を訪れるようなエントランス。お気に入りの看板は、大好きな素材「真鍮」とガラスを組み合わせた。
庭は、2019 年 4 月に 3 周年。ちょうどそのタイミングで、初の書籍『わが家のおいしい 梅 干し・梅シロップ・梅酒のレシピ』(成美堂出版/2019.4.19)を出版しました。初出版のきっかけは、意外なものでした。
「独立する数年前、フォトグラファーの三木麻奈さんと意気投合して、料理を毎日一品ずつ紹介する Facebook ページを立ち上げたんですよ。それはまったく営利目的ではないし、趣味みたいなもの。でも本気でやるっていうのが条件で。当時、私は眞由膳で毎日深夜まで働き、お休みは週 1~2 日という過酷かつ修行中の身。それでも週末になると、食材や調理器具、器を持参して、三木さんのご自宅に泊まり込みで料理し撮影をするんです。料理にテーマを決めて、月曜から土曜まで計 6 品を紹介して、日曜にはコラム。一年間限定でしたが、 365 日、毎日アップするんです。本気の大人の遊びですよね。すごく楽しかった!
その読者の中に出版関係の方がいらして、それがきっかけで初出版のお話を頂いたんです。ようやく自分が作ったものが撮られる側になったのだと、感慨深かったですね。写真は三木さんが撮影と知り、さらに嬉しかったです。
梅の本ができるまでは、丸々一年かかりました。お店をやりながらレシピを考え、料理を作り、校正して・・・という作業は大変なものでしたが、これまで歩んできた道を振り返り、食についての自分の思いを今一度考える、いい機会になったと思います。」
ワークショップは、食への思いを伝える大切なつながり。
青梅の収穫は 6 月。梅仕事をしながら 1 年かけて執筆した。
これからのこと
「もちろん料理は続けていきたいのですが、食に関わる現場にいると、現状に危機感を感じるんです。例えば、当たり前においしい食材が手に入りにくい。これまで自分が良いと思ってきたことが廃れていく怖さがあるんですね。食べる側にも格差があって、食に対する意識は、家庭や環境によって大きく差があります。これまで大切にしてきた日本の食文化が、危機に瀕している・・・。庭 niwa では、梅作りや味噌作りのワークショップを通じて、日本の食文化の豊かさや、私が抱いている思いを細々でも伝えていけたらなと思っています。やはり、食でつながるのは、人と人ですから。」
庭niwa(現在閉店)
Instagram @niwani00
facebook www.facebook.com/niwani00/
店主 柳澤由梨
東京生まれ。家具職人を志し、京都で修業時代を送り、都内のインテリアショップ勤務。その後、食の世界を探求するために、料理研究家のアシスタントを経て、西麻布の割烹眞由膳に勤めた後、独立。2016年4月、代官山に和食店 庭 niwaを開店。厨房で日々、旬の食材と向き合い、素直なおいしさのおばんざいを、すべてひとりで手作りをしている。初の著書『わが家のおいしい梅干し・梅シロップ・梅酒のレシピ』(成美堂出版)は、定番の梅干しの作り方や、梅を使った料理のレシピを多数掲載し、好評発売中。
ショップカードは、お友達のデザイナー根本真路さんにご依頼しました。正円ではなく手書き風のいびつな輪が重なり、ふたつの輪、庭(にわ)というテーマで、デザイナーさんと頭を付き合わせ、その場で微調整をしながら決めていきました。ロゴの庭という字は、元々は私が書いた文字なんですよ。その後、羽車さんのショールームに行って紙や印刷色の候補を選びました。
形については、角が角ばっているものと、角が丸いカードどちらにするか迷いました。そこで店内を見渡してみたら、木工の師匠作のコートかけや、友人がデザインした真鍮の照明、和紙のアート作品など、あたたかみのある=丸いものが多かったんです。元々「シャープさ」はこの店に求めていなかったので、ショップカードもそれを表すように角が丸いカードを選びました。
私はいつも厨房におり、お客様とお話する機会は少ないのですが、お会計の際にお客様がショップカードを手に取ってくださり「素敵なショップカードですね」「ロゴにはどんな意味があるんですか?」などと声をかけてくださり、ショップカードから話が広がる時があるんです。
ショップカードを手にしてくださるということは、ここを気に入ってくださったから。やはり嬉しいですね。きちんと考えてこだわって作ってよかったなと思いますね。
サイズ | 91×55mm(ネームカードR ) |
---|---|
紙 | コットン ナチュラル 232.8g |
印刷 | 活版印刷 |
色 | ダークイエロー・グレイッシュグリーン |
価格 | 500枚 21,200円 / 1,000枚 28,900円(+税) データ完全入稿0円 |
納期 | 校了後5営業日 |