自転車で知られているトーキョーバイクですが、元々バイク好きでオートバイの会社に勤めていたという金井さん。周りにはバイクで起業する人が多かったため、目をつけたのが自転車。会社を辞め、自転車のパーツを扱うオンラインショップをはじめたのだという。
「ショップをはじめるにあたりドメインを取得しなければならず、ふと浮かんだ名前がトーキョーバイク。その時に自転車を作ってみたら面白いかなぁって。調べてみたら、個人でもなんとか作れることがわかった。それでやってみることにしました。だから、このブランドは名前が先行なんですよ。当時はマウンテンバイクやロードバイクが流行っていましたが、もっと東京にフィットする自転車があるはずと考えました。」
「使用するパーツは一つひとつ吟味していきました。トーキョーバイクはカラーリングが特徴的だ、と言われることが多いんですが、最初に自転車を製造してもらうOEMの工場に行ってチャートを見せてもらったときに、欲しい色がなかったんですよ。確かに街を見てみると自転車の色ってバリエーションが少ない。でも、よくよく聞いてみたら、好きな色はつくれるよって言われて。なかなか一から色をつくろうという人がいなかったのかもしれませんね。トーキョーバイクでは、自分のイメージ通りのカラーリングに対する思いは強いです。最初の頃のラインナップは、白、黒、水色、ワインレッド、ブルーグレーという感じだったと思います。例えば水色だったら、フォルクスワーゲンの夏っぽいぬけた感じの水色の自転車に、Tシャツと短パンで乗りたいなぁとか、そういうイメージから始めるんです。70sから80sのヨーロッパの車の色味が好きなんですよね」
愛らしいヘッドバッチは金井社長のデザイン。
こだわって一から作ったオリジナルのカラーリング。
「単に乗り物、というのではなくて、インテリアやファッションに通じる自転車が理想です。最初は、Appleのユーザーと、当時J-WAVEを聴いている人をイメージしていました。具体的にいうと外国のことに詳しかったり、アートやデザインに興味があったり、美味しいものが好きだったりと、好奇心の強い人ですね。東京にはそういう知的好奇心が旺盛な人がたくさんいるなぁと。」
求めているのは、常に新しいことだという。「新しくなくては意味がないんですね。トーキョーバイクは、デザインだけでなく、東京で自転車を楽しむ文化そのものという、世にないものを生み出したところが評価してもらえました。それまで自転車に乗っていなかった人、特に女性にも乗ってもらいたいと思ってつくったものなんです。何よりも自転車が生きがいとか大袈裟なことではなく、自転車オタクでもない。映画も好き、美味しいものも好き、音楽も好き。そういった生活のひとつのピースとして存在するのがトーキョーバイクなんです」
店内には「MoonStar」のシューズや「カキモリ」の万年筆といった、他ブランドとのコラボアイテムや、暮らしがちょっと楽しくなるようなアイテムを販売している
トーキョーバイクを愛用している方々にその魅力を聞くならば、多くは真っ先に走りやすさを挙げる。金井さんは一体、どんな機能やデザインを目指したのだろうか。
「坂や信号が多い東京。ずっと自転車で走り続けることがないから、実は軽さが肝になるんです。それから、ギアは後ろだけにして、前はいらないと思いました。泥除けもいる? いらないよね。とにかく無駄を省きシンプルなデザインに落としこんでいきました。速く走ることや移動することだけが目的ではないので、スピードは重視しません。踏み込んだ瞬間の軽さや、上り坂をすいすいとあがれるかどうか。東京の風景を感じるためのデザインなんです」
谷中本店で人気なのがレンタルサイクル。トーキョーバイクの走り心地やデザインを気軽に試せると、国内外からたくさんの人が訪れる。
「利用する方のうち半分は欧米の方かもしれません。浅草に行った人が次に谷中を選ぶことが多いんですよ。帰ってくる頃にはみんな目を輝かせて、楽しかった!といってくれるので、それが嬉しいですね。谷中から30分走ってだいたい7〜8km。銀座まで6kmくらいなので、それだけでもかなり景色は変わります。東京という街は、一駅、二駅動くだけで、がらりと雰囲気がかわりますよね。渋谷と代官山と中目黒では全然違う。それに電車移動すると点と点なので、乗って降りて、お、雰囲気が変わったな。という感覚。街乗り自転車なら、点と点をつなげて線で動く。街が変わっていく姿を楽しむことができるんです」
オリジナルのガイドマップ。トーキョーバイクがおすすめするスポットをバイリンガルで紹介するシティガイドも製作中。
スタッフから、きんちゃんと呼ばれている金井社長。朗らかな笑顔で店に立つスタッフとの関係性は明るくオープンな雰囲気だ。
「スタッフには、旅、写真、美味しいものが好きな人が多いですね。あとはなぜか銭湯好きも多い。美大出身が何人かいるので、ワークショップのチラシも、自分たちでイラストを書いてつくってしまいます。みんな総じて好奇心が旺盛。最近は面接をする機会が減りましたが、これからもそんな人にトーキョーバイクに加わって欲しいと思っています」
子供・幼児向け商品「paddle」「little」をはじめたきっかけは、子供が産まれたスタッフから、子供向け自転車は原色かキャラものばかり、という声を聞いたから。他にはないものができた自信があるという。
「アイディアがスタッフから出てくることもあります。求めているのはこれが流行っているから、ということでは足りなくて、その先を見て欲しいんです。仕事は自分でつくらないと、と思いますよ。トーキョーバイクを始めた当初は、女性はお客さん全体の約一割。他の自転車メーカーでは、それ以下だったはずです。それくらい自転車=男性のアイテムという意識が強かった。それが今ではトーキョーバイクのユーザーの半数以上が女性ですね。それはとても嬉しい。それもあって、女性スタッフの意見は貴重だと思っています」
「バリエーションは現在10種ですが、まだまだ新しいことはやっていきたいと思ってますよ。かねてから要望の多いママチャリは、そろそろ形にしてみたいですね。トーキョーバイクがつくるママチャリですから、後ろで乗っている子どもが景色を楽しめる楽しいものがいい。そろそろ親子三世代でトーキョーバイクに乗っている姿も見れるようになるかもしれないですよ」
スタッフが手書き制作したチラシポスター。
幼児・子供向け自転車には、トマト、モモ、など子供にわかりやすい名前をつけた。
Tokyobike
Shop&Rentals 谷中本店
〒110-0001 東京都台東区谷中4-2-39 TEL.03-5809-0980
営業時間: 平日10:00〜19:00/土日祝10:00〜18:00
レンタルバイク利用時間 : 10:00〜18:00
定休日:火曜日 ※祝日営業。その場合、翌水曜日が振替休日
www.tokyobike.com
Instagram @tokyobike_jp
Q. 商品やサービスで一番大切にしていることは何ですか。
私たちが掲げているテーマは“TOKYO SLOW”。なんでもない日常にささやかな変化を加えるツールになって欲しいという想いです。そして、共感してくれる人が集まる場をつくること。
Q. ブランドをどのような言葉で評価されたいですか。
「旅人は住む人のように、住む人は旅人のように」これは、これはスタート時から思い続けてきたことを言葉にしました。トーキョーバイクが提案したいのは、旅人がまるで地元の人がするようにフラッと出かけて、その土地を味わう。もしくはそこに暮らす人が、まるで旅をするように新しい出会いをする。その両方を実現できる自転車なんです。
Q. Webサイト上の商品の写真は全て美しいですね。これらは全て社内で撮影しているのですか。
Webサイト、SNSの写真は全てスタッフが撮影しています。(スタジオで撮る自転車の写真だけ知り合いのフォトグラファーに依頼しています)ほとんどのスタッフがカメラ好きで有志が集まって写真部を作っています。また、フィルム専門のカメラ店やロモグラフィーと一緒にイベントをしたりして、先日は鈴木心さんを講師に迎え、社員向けのワークショップも行いました。海外店舗の写真はそれぞれのパートナーが撮影したものを送ってきてくれています。Instagramも国ごとにアカウントを持っていますが、発信される写真は共通した空気感があります。
Q. ブランド名「tokyobike」のロゴはどなたのデザインですか。
実は、私がデザインしたんです。書体は「ヘルベチカ」を基調にしています。よりトーキョーバイクらしいものに仕上げたくて、「t」の文字の横線は基本よりも高く、「i」の点は自転車のタイヤのように丸くしてまとめました。
Q. お気に入りのアーティストは誰ですか。また好きなアートについても教えてください。
アートは詳しくはないのですがロートレック、サヴィニャック、北斎などユーモラスな部分が伝わってくるものが好きです。近代建築も好きで旅先ではよく立ち寄ります。中でもメキシコで見たルイスバラガンの修道院は素晴らしかったです。
Q. プライベートな週末はどのように過ごしていますか?
旅が好きなので、よく国内外を旅行します。また、近所の馴染みの飲食店にふらりと立ち寄る事も好きですね。この辺りの台東区エリアには小さくて魅力的なお店がいっぱいあるので。
Q. あなたの性格を3つの言葉で表すと何ですか?
呑兵衛で照れ屋…はさておき。風まかせ、運がいい、あとは突拍子もないことを言う…ですかね。時々、ふとした思いつきでスタッフを困らせることがありますよ。
Q. 紙製品の企業として、紙に関する質問をさせてください。あなたにとって「紙」はどのような存在ですか?
やっぱり、紙は感覚で楽しめるものというか、感触だけでなく、見た感じの特徴や匂いだってありますよね。そのように人間の感覚に直結した大切な素材だと思います。それから、紙の本だと本の厚みから自分がどのあたりを読んでいるのかわかるのが良いですね。デジタルと違い時間がスローだし、穏やかに向き合えます。
谷中に来た15年前。同じタイミングで店開きをしたステンドグラス屋さんに依頼した看板