photo by Chris Michel
Wesley Verhoeveさんは、被写体との出会いを求め、カメラを片手に街中を何時間も歩く。興味を惹かれる人を見つけると、ポートレイトを撮っても良いかと声をかけ、カメラのシャッターを切った。その様子はまるで「あなたは、どんな人?あなたの物語を聞かせて」と問いかけているようだ。
Wesley氏の作品は、ハイコントラストという撮影手法がとられている。
陽の当たる部分の明るさと影の暗さをくっきりと際立たせるこの手法は、自然や天候に左右され、撮影できる時間帯も限られる。
「私の作品づくりは、世界中の街角で人々と出会うことから始まります。被写体になるのは、路上にいる面白いエネルギーを発している人です。彼らとの交流は、1〜2分と短いこともあれば、お互いをより知るために話し込むこともある。そしていつも名刺を渡して、連絡を取り合えるようにするのです。カメラは、彼らと話をするための口実なんですね。」
この手法は、個人的な作品づくりだけでなく商業写真にも活かされてきた。Wesleyさんが手がけたLinkedIn、Squarespace、Hanesなどの企業広告には、プロのモデルではなく、街角で出会った人々をキャスティングしている。そして写真家として活躍する以前から、彼の好奇心は、市井(しせい)の人々に向けられており、彼の仕事の中心であった。
Wesleyさんは、オランダのマーストリヒト大学でMBA学位を取得した。約10年間音楽業界に身を置き、レコードレーベルの運営やアルバムの制作、曲の執筆、アーティストの管理、コンサートの宣伝など幅広い業務を担っていた。独立後は職人メーカーと協力をしてメンズアクセサリーを製作したり、そのドキュメンタリー映像を撮っていた時期もあるというからその多才ぶりに驚かされる。写真家として活動を始めて約6年。彼は自身のキャリアをどう捉えているのだろうか。
「一般的な写真家に比べると、私のキャリアは一風変わっています。けれど共通点が、あるのです。それは、興味深い創造的な人を見つけ出して、その人の物語を広く遠くまで伝えること。私は、根っからのストーリーテラー(語り手)なのでしょう。例えば、新進気鋭のシンガーソングライターを発掘して、アルバムを制作する。まだ知られていないバッグメーカーの短いドキュメンタリー映像を撮る。ニューヨークの路上で歌う画家に出会って、写真を撮る。結局のところ私はずっと、音楽や映像、写真という作品を通じて興味深い人々の物語を伝えてきたのです。」
Wesley氏は、過去に音楽制作会社「ファミリーレコード」を設立し、制作からマーケティング、運営まで一手に引き受けた。
作品は、ビルボードの新人発掘チャート、ヒートシーカーズで1位を獲得。
世界的に利用者が多い、ファイル転送プラットフォーム「We Transfer」。
そのトップページには、Wesley氏がキューレーションした500人以上のビジュアルクリエーターの作品が使用されている。
「もちろん過去の仕事がすべて、必ずしも現在の仕事につながったとは言えませんが、多くの経験や教訓を得ることができました。MBA学位は写真家としてのキャリアと全く無関係に思えるかもしれませんね。けれど、良い教育はあらゆる状況で活かせるスキルを身につけてくれます。ビジネススクールで学んだ最も重要なことは、問題を分析し、解決策を考え出し、チームで協力して実行する方法でした。
これは、写真家として企業広告を手がける時に非常に有効なスキルです。一般的な写真家は、クライアントからコンセプトを伝えられ撮影をしますが、私は企画段階から参加し、コンセプトのアイディアを出し、場所を選び、ブランドのマーケティングの一環として、広告のターゲット層に合うような非モデルのキャスティングを提案しています。私はこの方法で企業広告に取り組むことが好きなのです。」
Wesley氏が大切にしているもう一つの仕事がキュレーション*¹だ。彼は、ニューヨークにあるICP(国際写真センター)で継続的に開催されている、ICP Projected展*²の創設キュレーターを務めており、これまでに約50カ国、300人以上の写真家の作品を紹介してきた。
「キュレーターとしての私は、客観的に作品を判断する《外の目》でありたいと思っています。そして、写真や映像作品を通じて写真家が伝えたいメッセージやストーリーを語る手伝いをしたいのです。
キュレーターの仕事で特に気に入っているのは、世界中の写真家と信頼関係を築き、作品を披露する方法をともに模索できる点ですね。私は、自分以外の写真家のコレクション作品をキュレーションして、優先順位をつけるのが大好きでこれは展示会や写真集を構成するのに役立ちます。
写真家とキュレーター。同時に二足のわらじを履く理由は、ふたつの職種が相互にうまく作用するからです。私にとってはどちらの仕事も大切です。」
さらに2018年に、写真家で親友のPaul Jun(ポール・ジュン)氏と、「The Observer(オブザーバー/意味:観察者)」というプロジェクトを共同設立し、写真家を目指す若い世代に向けて写真集をデータベース化したウェブサイトを立ち上げた。
「The Observer」に掲載された、著名な写真家達の肖像画は、オーストラリア出身のイラストレーター、Jeffrey Phillips氏によるもの。
プロジェクトが始動した当初、スタジオメイトでもあった彼に依頼した。
誰もが、本屋でいいなと思った写真集を手に取って眺めたり、購入した経験があるだろう。本屋よりもオンラインで本を注文する機会が多くなった昨今、そんな運命的な出会いは減る一方だ。もちろん、大手ECサイトの試し読みプログラムを利用すれば、写真集の中身を断片的に閲覧することはできるが、膨大な情報の海に投げ出され、どの写真集を手にすればいいのか、どんな写真集に心が動かされるのか、手がかりがないのが現状だ。
一方The Observerをのぞいてみると、ユーモラスなイラストで描かれた写真家達がズラリと並ぶ。サイトでは50名以上の著名な写真家達のインタビュー記事が読める上、その写真家が薦める写真集も網羅されている。写真家を目指す学生にとっては憧れの写真家のお気に入りを知る絶好の機会だ。
そもそも学生にとって、写真集は高価なもので気軽に買い求めることはができない。The Observerには、写真集の蔵書マップがあり自分の興味惹かれた写真集が、全米のどの図書館で閲覧可能なのか分かる。すべての写真集を購入しなくても学生にとって学びたい写真集を実際に手に取れるのは、大きなメリットだろう。
「私とポールはともに写真家なので、これから写真家を目指す若い世代の苦労が分かります。彼らにとって役立つコンテンツを作りたくてこのサイトを立ち上げました。学生の多くは学ぶためにどんな写真集を選べばいいのか、それを見つける手立てがありません。
そこで、私たちの好きな写真家にインタビューをしました。インタビューには、彼らの素晴らしい知恵と実践的なヒントが詰まっています。貴重な情報が集まっているので、ぜひ写真集を探すヒントにして欲しいですね。
写真集の世界においても、デジタル化は加速しますます電子書籍が増え続けていくことでしょう。けれどタブレットやPCの画面を眺めるだけではなく、実際に印刷された写真集を手にし、ページをめくることを大切にして欲しい。時にはアナログに減速することの利点を忘れてはいけません。」
新型コロナウイルスによる世界的なパンデミックで、日常が一変した。全米で最も感染拡大が深刻だったニューヨークでは、厳しいロックダウンの措置がとられ、Wesleyさんはいつもの撮影手法を諦めるしかなかった。
「これまでのように街を歩き、路上で見知らぬ人に声をかけ、写真を撮ることが不可能になりました。私は、撮影に取りかかるための新しい手法を見つける必要に迫られたのです。
2020年の夏、ロックダウン下のニューヨークから各国への移動手段が難しくなった時期に、私はバンクーバーの小さな街にしばらく滞在していました。私にとっては、まったく知らない田舎町。毎日この近所だけに縛られている状況で何もすることがありません。
そんな状況で、私は《NOTICE 意味:小さな気づき》というタイトルで撮影することを思いつき、作品づくりのために毎日散歩をするようになりました。この作品は、《日常生活における、小さな驚異》に焦点を当てています。
例えば、朝見つけた草花が、夕方には少し背が伸びているのに気づきます。夕暮れ、田舎町の家々や木立が影を落とす様も神秘的です。道端の花に目をとめ、その細部がまるで輝く太陽のようだと感動を覚えました。
《NOTICE》のプロジェクトを通じて、これまで気づかなかった世界が広がっていると知ったのです。忙しくてクレイジーな世界をシャットアウトして、田舎町で美しさの法則を発見することは、瞑想的で治療的な体験でした。まるで瞑想中に呼吸だけに注意を払うように、撮影においても美しさを発見し、堪能することだけに集中できたのです。」
Wesley氏は、初の写真集「NOTICE」をこの5月に冊数限定で出版する。この写真集には、人物のポートレートは一切なく、これまでの作風とは大きく異なる一冊になった。
「《NOTICE》プロジェクトを、人々に伝えるには、美しい紙の本にするのが、最も良い方法だと考えました。それは、私が決めたわけではなく、自然の流れで出来上がった一冊だと思います。」
これまで市井の人々の物語を、作品を通じて伝えてきた、生粋のストーリーテラーは、日常生活のかけがえのない一瞬をカメラで切り取り、人々の心揺さぶる、小さな驚異を語り続けるのだろう。
これからについて
「将来的には、写真家達のシェアスタジオを作りたいです。現在、The Observerのコミュニティでは、オンラインワークショップを開催しています。いずれそのスタジオで、刺激的なワークショップを主催したいですね。
長期的な展望としては、ヨーロッパで自分のスタジオを設立することに取り組んでいます。再び旅行が可能になったら、私は世界中の街角で、人々の心に残る物語を発見したいです。」
photo by Fons Verhoeve
Q. 写真家として困難を感じたことはありますか?
もちろんです!クリエイターは、自由である反面、不確実で変動する収入に左右されます。今のところ上手くいっていますが、誰にとっても最良の選択とは言えません。もうひとつの課題は、上司の不在です。フリーランスには、タスクに優先順位をつけたり、正しいタイミングで道を修正してくれる存在がいません。全ての責任が、双肩にかかるのです。私も含め、ほとんどの写真家は、長時間働いています。常に仕事は山積みで、休憩をすることに罪悪感を覚えるので、ワーク・ライフ・バランスが難しいですね。
Q. あなたのプロボノ活動*3について教えてください。
サンフランシスコの非営利団体が行っている、ホームレス向けの料理教育プロジェクト「chefs」に感銘を受け、この活動を広く伝える必要があると感じました。そこで、このプロジェクトに参加した人達の写真を撮り、いくつかの雑誌社に写真を送ったところ、San Francisco Magazineが、大きく取り上げました。プロボノ活動は、写真家としての私の人生を肯定し、専門的なスキルで、人々を救えると思い出させてくれます。
Q. 環境問題に関して何か取り組んでいますか?
環境問題は、非常に興味深いトピックですが、まだ十分に取り組んでいるとはいえません。以前、NATIONAL GEOGRAPHIC TRAVELLERに寄稿するため、ジャマイカのオーガニックな菜食レストラン「STUSH IN THE BUSH」や、持続可能な農業をする人々を撮影しました。今後、環境問題に取り組む非営利団体のためのプロボノ活動をしたいです。
Q. これまでに旅した国で、お気に入りの国はどこですか?
日本は、旅行して過ごすのが一番好きな国です。日本を再訪できるようになったら、新しい作品づくりのためのアーティスト・イン・レジデンスを見つけたいですね。
メキシコシティも、とても楽しい街です。大都市なのにローカル感があり、居心地が良いのです。人々の温かさから食べ物、芸術文化、写真家のコミュニティまで、皆さんも、さまざまな視点で体験してみる価値のある都市です。
Q. あなたの趣味は何ですか?
私は、仕事が趣味なので、仕事以外のことに熱中することは、ほとんどありません。しかし、ワーカホリック気味だと自覚しているので、趣味を見つける努力をしています。最近、私はオンラインチェスとNYTクロスワードパズルに夢中です。自然も大好きですね。トレッキング中の写真は、同じく写真家の父が撮影してくれました。
Q. あなたにとって、紙はどういう存在ですか?
私は、紙と印刷作品の大ファンです。雑誌でも、額装した写真でも、自分の作品を印刷物で見ることほど、特別なものはありません。ご存じのように、私は写真集の情熱的なコレクターでもあり、レターヘッド*4やサンクスカードなど、すべての印刷物を愛しています。特に1950年代以前の歴史的なレターヘッドを見るのが大好きです。
Q. ご自身の性格を3つの言葉で表すと何ですか。
Curious, Curious and Curious!! (「好奇心旺盛」の三乗!!)
Wesley Verhoeve(ウェスリー・フェルホーヴ)
wesley.co
theobservers.co
NYとアムステルダムを拠点に活動する写真家で、国際写真センターの「Projected」の創設キュレーター。彼の写真は、NATIONAL GEOGRAPHIC TRAVELLER、EATER、WIREDなどの雑誌に掲載されており、LinkedInやHanesの世界的な企業広告を手がける。著名な写真家と次世代を繋ぐ「The Observers」を共同設立。
(Photo by Patrick Michael Chin )
以前から活版印刷で名刺を作りたいと考えていました。相棒でもあり、商売道具のカメラのイラストは、欠かせません。カメラのイラストは、友人のイラストレーターによるものです。
紙や印刷に関する日本の文化は、非常に興味深いですね。東京滞在中に、羽車で名刺を作ったのは、とてもエキサイティングな経験でした。仕上がりは、私が望んでいた以上に、素晴らしい出来映えでした。
サイズ | 91×55mm(ネームカード ) |
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紙 | ネームカード コットン スノーホワイト 348.8g |
印刷 | 活版印刷 |
色 | ブラック |
価格 | 100枚 10,430円 / 300枚 12,290円(+税) データ作成料 3,000円(+税) 納期 校了後4営業日 |