五感を刺激する海外研修(後編) シンガポール
2006年からスタートした羽車の海外研修。人材育成の一環として、のべ60名以上が参加しています。海外研修なんて優雅だと思ったら大間違い。訪問先のアポイントからレポート・報告会まで、ハードで骨太なのが「羽車流」。2018年の海外研修の行き先はアジアのハブと言われる「シンガポール」。その研修の様子を、リーダー役を務めた二人が振り返ります。
教わる研修から任される研修へシフト
今回のシンガポール研修は、初参加6名、リピーター制度*の利用が6名、計12名のスタッフが参加しました。
*海外研修リピーター制度
過去に海外研修に参加したスタッフが、有給休暇を使って有志で参加する羽車の制度。会社は一部費用を補助する。初参加スタッフを見守り研修全体を成功に導くフォロー役も兼ねる。
現地でより自主的にフットワークよく動けるように、初参加とリピーターが半々の2グループに設定。各グループのリーダーは入社14年目の岩屋と、2年目の中野に。これはリピーターの話し合いにより提案されました。
左:製造部 岩屋 右:企画部 中野
- 岩屋
- 私にとって初めての海外。貴重な機会をもらったこと、留守中は同じ工程のスタッフに迷惑をかけてしまうこと、リーダーだから頑張らないと、とプレッシャーばかり感じていました。一緒にリーダーに指名された中野さんは企画部で、封筒製造の現場にいる私とは、場所も仕事内容も全く違い、本当に接点がなかったんです。まずは中野さんと協力することを考えました。
- 中野
- どちらかというと、人に指示をしたり人前で話すことが得意ではない私。リーダーに指名されて「自分に挑戦してごらん!」と痛いところに課題を渡されたと感じて、これはまずいな、と正直思いました。研修に選ばれて嬉しい反面、かなり焦りも感じました。
初めて研修に参加する2人にとって、研修のテーマ決めはとても難しいこと。そこでリピーターは決起集会を提案。総務、企画、オンライン担当、製造部など部署をまたいだ研修メンバーを集め、気楽に期待や不安をお互い話す機会をつくりました。「このメンバー全員が必ず何かを得られる研修にしたい」。リーダーに大きな責任感が芽生えてきたといいます。
後日、2人が決めた研修テーマは
【シンガポールを知り 仲間を知り 自分を知ろう】
今の等身大の自分に素直に向き合い、考え出したテーマでした。会社という組織においても、人と人のコミュニケーションは永遠のテーマです。他部署と連携したり方向性を共有する際には、必ずと言っていいほど仲間を理解することが求められるもの。そんな普遍的なテーマだからこそ、取り組みがいのある大きな目標となりました。
事前に全メンバーが担当を決めて作る「手作りガイドブック」。今回は製本まで社内生産した。
世界第2位の人口密度
多様性とエネルギーを肌で感じる
シンガポールは、中華系(74%)、マレー系(13%)、インド系(9%)その他で構成される多民族国家。歴史や信仰などバックグラウンドが異なる民族が集まり、淡路島ほどの狭い国土に約560万人が暮らしています。人口密度はマカオに次いで世界第2位。世界8位のGDP(一人当たりの名目GDP)を稼ぎ出し、アジアの金融の中心と言われています。
ガーデンシティと呼ばれるシンガポールは、街路樹も熱帯植物
アラブストリート。マレー系の人が信仰するイスラム教のモスクも点在する。
ヒンドゥー教の新年「ディーワーリー」のお祝い物を買う人々で活気にあふれるリトルインディア
標識には4か国語の公用語(英語、中国語、タミル語、マレー語)が使われる。デザイン性よりも伝わることが重要
- 中野
- はじめはいろいろな人種と言葉が飛び交う街に圧倒されていたのですが、半日ほどで慣れてきました。片言の英語で話しかけると、理解しようと聞いてくれる姿勢や、英語でゆっくり話してくれることが多く、多民族国家の魅力の一端を感じました。人種、信仰、服装、言葉も違う人々が常に共存していて、例えば、礼拝の時間でも観光客がすぐ隣で写真を撮っていたり。でもそれをあまり気にしている感もなく、他者や他文化に対して理解を持ちつつ、寛容である国だと感じました。
お客さまはEU 世界に向けた印刷会社
シンガポールを知る研修として紙製品の会社を訪問。中心地からMRTで30分ほどにあるPixel Tech社は、ポスターからブランドのパッケージまで手掛ける社員100名ほどの中堅の印刷会社です。顧客は主にEUの企業でハイブランドの美しいパッケージも手掛けているそう。英語が公用語のシンガポールでは、顧客が海外企業であることは珍しいことではありません。
セールスマネージャーのマーカスさんから、会社やシンガポールのマーケットについて説明のあと、同じ紙製品メーカーとして意見交換
工場は、数社の工場が同居する工場団地のようなビル内にある。スペースを有効に使い効率よく作業をすすめている
スタッフの名前がそれぞれの国の文字で書かれているエントランス
デザイン性の高いステーショナリーブランド「Carda & Co」を提案している。レタープレスや箔押しなど、特殊印刷を使った高付加価値の商品ライン
- 岩屋
- Pixel Tech社は、主力のオフセット・デジタル印刷事業やパッケージ事業に加え、店舗の販促用品を扱う新規事業、個人向けのレターブランド、学生をターゲットにした工場見学の開催など、様々な取り組みを進めている企業でした。しかしただ単に規模を大きく広げるのではなく、自分たちのコンセプトにあった仕事を大切にしていると聞き、国を超えて羽車ともどこか共通する価値観も感じました。
シンガポール発
女性が起業したレタープレス工房
次に訪れたのは、シンガポールで人気のあるレタープレス工房The Gentlemen’s Press。アメリカでレタープレスを学び起業したという、ミシェルさんを訪問しました。現在4人(うち3名女性)のスタッフとともに、日々個人や企業からの案内状やウエディングの招待状の依頼を受け、こだわりの印刷物を制作しています。
シンガポールでは市内中心部には工場のある事務所はおけないため、郊外にあるビルでものづくりがされている。
レタープレスを学んでいたとき、女性ひとりで会社を興すなんて無理だと言われ、一念発起し起業したという、ミシェルさん
レトロな木製の版は、手動の活版印刷機で印刷
- 中野
- 工房内は彼女がこだわったものであふれカジュアルな雰囲気。こじんまりした工房内でしたが、奥にはオフセット印刷や箔押し加工機、断裁機などが揃い、さまざまなオーダーに対応されているそう。質感を重視した特殊紙が積まれていて、付加価値の高い商品づくりを丁寧に行っている工房でした。
お互いを知る近道は「同じ体験と時間」の共有
海外研修での日課は、1日の終わり夜遅くに行われるミーティング。今回の研修テーマ【シンガポールを知り 仲間を知り 自分を知ろう】を踏まえて、新たにシンガポールについて発見したことや研修メンバーの意外な一面など、コミュニケーションを通じて知ったことを自分の言葉で話しシェアする時間がとられました。
最終日のミーティングのテーマは「自分について、新たに発見したこと」
「いつもの仕事とは違うメンバーの中で、感情を表に出し自分を知ってもらう大切さを知った」
「久しぶりに英語を話して、かつて自分が英語が好きだったことを思い出せた」
「小さなことにこだわっていた私が、研修を通じて少し寛容になれている気がする。昨日の自分を超えられたようないい気分。」
「何とかこの研修を成功させたい、ということに執着を持っている自分に気が付いた」
準備期間を経て少しずつお互いの距離感を縮めてきたメンバーたち。それだけに、各自の「個人的な発見」の話にも、成長を見守るような共感が生まれました。相手を理解するには、自分の感情に向き合うことも大切なのかもしれません。
シンガポールの文化と歴史を知ることができる、シンガポール国立博物館「National Museum of Singapore」
研修中は、限られた日程の中で多くの体験をしたいという思いから、徐々に「誰かの指示で動く」から「役割を意識し自主的に動く」チームに、自然とシフトしていきました。それはチームとしてのパワーがぐっと上がってきた証拠。その体験を共有すると、会社に戻ってきてからもチーム全体を考えて自分から動けるスタッフに少しずつ成長していく。それがやがて会社全体にじわっと浸透してくれたら。と、研修を見守る総務部のスタッフは話します。
学びだけの視察旅行でも、楽しい交流の社員旅行でもない羽車の海外研修。ゆっくりと遠回りしながら、少しずつチーム力を高める人材研修としてこれからも続いていきます。
番外編 ここが良かった!スタッフおすすめスポット
「個性的なモダン建築」
地震や台風の被害がないシンガポールの見どころのひとつは、斬新なデザインの建築物。ひとつとして同じビルがないくらい個性的なモダン建築が、日常の風景に溶け込んでいます。
Henderson Waves(ヘンダーソン・ウェーブ・ブリッジ)
2008年に公開された、地上36メートルにある歩道橋、ヘンダーソン・ウェーブ・ブリッジ。うっそうとした熱帯雨林にかかるうねる波をイメージした曲がりくねる橋からは、遠く高層ビル群や海を臨むことができ、ジョギングや散歩をする人が絶えません。涼しい朝のうちがおすすめ。○ 中野 ○
LASALLE College of the Arts(ラサール美術大学)
この独創的な建物はシンガポールのRSPアーキテクツのデザインによる美大。建物全体が大きなアトリウムの中にあるように感じられ、ドームの中にある建物同士は空中の回廊で結ばれています。2004年のヴェネチア・ビエンナーレの建築部門シンガポール代表となり、数々の賞を受賞しています。○ 中野 ○
Library@orchard(ライブラリー・アット・オーチャード)
にぎやかなショッピングエリアの中心にある図書館。訪れる人のクリエイティビティを養うことがテーマで、アートやデザイン、ライフスタイルに関する書籍10万タイトルを所蔵しています。モダンで遊びごころある館内は必見。○ 中野 ○
Bynd Artisan Atelier(バインド・アーティザン・アトリエ)
ノート製本などを行う会社がブランディング化した直営店。表紙、中紙、留め金などを選んでカスタムのノートを作ることができます。革製のバッグや名刺入れなどには箔押しで名入れも可能。加工は店内で行うので、その様子が見られるのも楽しい。有名クリエイターやシンガポールのローカルアーティストとのコラボレーションもよく行われています。シンガポールに5店舗、上海にも出店しています。○ 岩屋 ○
Hawker(ホーカーズ)
これなしにシンガポールの文化は語れない、地元民にも観光客にも愛される屋台の食べ物屋さん。多民族国家を象徴するように、さまざまなルーツを持つ食べ物が所せましと並びます。価格は安く、早くておいしい。共働きがほとんどのシンガポールでは、食事をホーカーで済ませることがとてもポピュラーです。○ 岩屋 ○
シンガポールの“ホーカー文化”の魅力を広めるイベントも