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羽車ロゴのクリエーション

羽車ロゴのクリエーション

2015年、100周年まであと数年というタイミングで、「ハグルマ封筒」の社名を創業当時の商標であった「羽車」の漢字表記に変更しました。羽車が封筒やカードだけでなく、タグ、冊子、箱など、コミュニケーションを豊かにする紙製品を大きく広げていくことを目指した時期でもありました。社名変更に伴い、ロゴも一新しました。
ロゴリニューアルを担当したのは「松本きよさん」。本名 松本清孝(きよたか)さん、44歳。アメリカはミネアポリスとニューヨークでの計11年の生活を経て、現在はドイツのデュッセルドルフで「レタープレス77」という活版印刷のプリントショップを営み、今年で12年目。 主に名刺、結婚招待状、ベビーカードのデザインなどを印刷しています。

価値観が同じだから、同じ場所で出会う

きよさんと羽車との出会いは2009年フランクフルト、世界最大の紙製品展示会ペーパーワールド。日本のステーショナリーブランドとして、ウイングド・ウィールが初の海外見本市に出展した時にさかのぼります。
1日で回れないほど広い展示会場の中で、きよさんは知り合いの活版印刷屋さんのブースに立ち寄りました。その時、友人から「あそこのウイングド・ウィールという日本のショップが、不思議な印刷をしていてとても気になるんだけど。きよ、日本語で聞いてみてくれないか?」と頼まれました。そうして、きよさんがウイングド・ウィールのブースに立ち寄ったことが、羽車代表 杉浦との出会いでした。お互い印刷のクリエーションについて熱く語り、すぐに意気投合。そこから、親友のような関係になるのに、時間はかかりませんでした。

長い旅を共有できる人に依頼したい

それからきよさんには、ウイングド・ウィールの商品を色々と作ってもらいました。シンプルな線で表現された、ネコやブタ、コウモリ型のカード、フクロウのマーク。きよさんも杉浦もお互い動物が好きということもあり、動物をモチーフにしたものが多くなりました。彼のデザインはとてもシンプル。それでいてどこかにホッとする温かさがあります。カードの些細な形状ひとつでも納得いくまでとことん考えて、その時間を大切にしてくれることに安心感がありました。

社名を変更する際、新しい社章をきよさんに依頼することは自然な流れでした。杉浦とは何度となくドイツと日本で会って、いろんなことを話し合ううちに、羽車の良い部分もそうでないところも知り、無理せずに受け入れてくれたからです。
新しい社章を誰に依頼したいかは、「その人と一緒に旅をしたいかどうか」という問いに近いのでは、と杉浦。長年付き合っていくものなので、信頼できる人、時間やモノの価値を共有できる人と一緒に考え、作っていきたい。その方が最終的に強さのあるデザインに育つはずだと考えるから。依頼を受ける側にしても同じで、「この会社の将来のために心からやってあげたい」という気持ちがあるかどうかはとても重要です。

クリエーションのリアルな葛藤

そうしてきよさんには、「企業ロゴを作る」という大きなプレッシャーと課題が放り込まれました。新しい社章については、こちらの希望やコンセプト、どのような雰囲気にしたいなどは、あえて何も伝えませんでした。 一人のクリエイターとしての葛藤とアイディア。後に彼から聞いた、具体的なコメントはこれ。

◯アイディア探し
杉浦さんから『会社のブランディングに関するデザインで相談がある』ってメールがきて、どんな感じで手伝えるの〜といつものように返事したら、まさか新しいロゴの事なんて思ってなかったから、もう、すごいびっくりしましたよ!すごく嬉しくて、心臓がドキドキしたけど、期待に応えられるようがんばってやってみようと思いましたね。
デザインを始めるにあたって、まず、ぼーっとしながら、空なんか眺めたりして、なんか良いアイデアでも降ってこないかなって。いや、これ冗談でなくて、本当です。でも、そうそう簡単には降ってこないので、いろいろリサーチをしながら、羽と車輪のスケッチを始めました。 一つの羽にするか、翼にするか、リアルな感じにするかシンプルにするか。クルマ、自転車、電車、馬車等、いろいろなタイヤ、車輪の写真をながら、自分のイラストのスタイルに合うように。 1色でもしっかりしているロゴにしたいとは最初から考えてました。
◯次の日や数日後に再検討する
とにかく、いろいろスケッチした羽と車輪をどうやって一緒にするかで、ああでもないこうでもないと色々試しましたね。良い感じだなと思って、次の日見ると、ダメだなと思ったり、数日経つと、やっぱり悪くないかなとか、1週間経って、また違うかなとか、毎日大変だったけど、楽しんでやってた思い出がありますね。
3週間くらいしてまだ検討中。杉浦さんに『がんばってやってます、もう少しで見せることができるのでもうしばらくの辛抱を。。。』っとメールを書いたら、『長く人生を共にするロゴマークですから納得するまでお願いします!』と返事が来て。遠くから静かに、根気よく見守っててくれている心の広さと温かさを、離れいても感じましたね。

◯ロゴへの思いは自分を信じて伝える
僕も、中途半端なものは見せない主義なので、本当納得いくまでやって、絞りに絞って、5個ロゴを杉浦さんに見せたんですよ。(それまでのスケッチなども全部pdfファイルにまとめてみせた。)
『このロゴからはダイナミックさ、優しさ、フレンドリーな感じ、かわいさ、不思議な感じ等、いろいろな要素が見える、感じられるはずです。それからこれはいつも思ってたんですが、羽車って、ただ単なる封筒会社でなくて、環境や地域の人たちのことも考えたり、いろいろなワークショップを通して、大人だけでなく子供達とも活動したり。そんなことを考えながら、大人から子供まで、みんなに喜んでもらえる、そして、わかってもらえるロゴができたらなと思ってデザインしてみました。』っと書いて、メールを送った時は、ドキドキしましたね。気に入ってもらえるといいな、っというか、気に入ってくれるはずと自分を信じて。
そしたら、結構すぐに返事が来たんですよ。『きよさん、ありがとう。自分のロゴへ対する想いがきよさんの考えるプロセスに全て入ってました。ロゴは自分の想像を超えてました。絶妙で、バランスが良く、全ての人に愛されると思います。心から感謝してます!』っと。。。いやぁ、こっちもメール読んでて、もう、超ほっとして、ちょっと涙ぐみました。良かった、僕の思いが伝わった!って。

◯提案時のレイアウトにも思いを込めて
5個のロゴをpdfファイルで並べた時に、僕が一番気に入ってるのを真ん中に置いたんですよね。これを杉浦さんに選んでもらいたい!って願いを込めて。だって、自然と目ってまず真ん中にいくじゃないですか。そしたら、やっぱりそれを選んでくれたんですよ!(杉浦さん曰く二つ候補があって、どっちにしようか迷ったらしいんだけど。)
杉浦さんはいまだに、このロゴは本当に気に入ってるって言ってくれるし、僕ももちろん、すごく気に入ってるし、羽車のために良い仕事ができて良かったなと思ってます。

自分らしい生き方と世界観を貫く

そうして完成した羽車のロゴ。今では社章としてすっかり馴染み、羽車スタッフみんなから愛されています。最後に、きよさんのデュッセルドルフでの生活をお伺いしました。

「レタープレス77」のプリントショップでは、全部一人でやってます。もちろん大変なことも多いけど、なんて言うか、最初から終わりまで自分のコントロールできる範囲でやりたいんですよね。お客さんとのやりとりから、パッキングまで。毎週毎月できる仕事の量も限られてくるし、時間もかかることもあるけど。それでも、僕のスタイルとデザインが好きで、プリントショップにきてくれるお客さんがいるのはとっても感謝してます。 いろんなデザイナーさんからの仕事はいつも楽しいし、色々インスピレーションを受けますね。僕はどんなにシンプルでも、自分で作ったデザインを自分で印刷したいってのがあって今までやってきてます。

ドイツ人の奥さんもアートの方で忙しく創作してるので、子供たちとの時間は二人で分けてます。特に長男が生まれてからは一日中プリントショップにいられなくなったので、この2年間はちょっと仕事を減らしつつやってきました。プリントショップにいない時は、長男と一緒に公園にいます。笑 あ、それか、長女と一緒にバレエスクールに行くか。子供が好きなので、子供達と一緒にいる時間をなるべく多くして、仕事と両立しながらこれからも暮らしていきたいです。